ヨーク大聖堂 ステンドグラス編
今回は、前回の記事でヨーク大聖堂の見どころの1つとしてご紹介したステンドグラス、The great east windowについてご紹介します。
ここでご紹介できるパネルはほんの一部ですが、この巨大な傑作を読み解くお手伝いになればと思います。
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歴史
ヨーク大聖堂が誇るヨーロッパ最大のステンドグラスの窓は、イギリスで最も優れたガラス工である、ジョン・ソーントン(John Thornton)によって1405年から1408年にかけて作成されました。
ソーントンは一人で窓のデザイン、主要な絵付けをしたとされていますが、画風から判断するに、複数のガラス絵師が関わっていたことも分かっています。にも関わらず、窓全体が一貫して高いクオリティを保っていることがこのステンドグラスの特徴と言えます。
2005年に老朽化を原因として、ステンドグラスを構成する311のパネル全てを対象とした、大規模な修繕作業が始まり、2018年に保存修復された全てのパネルがあるべき場所に戻されました。
構成
311のパネルは以下写真の通りにテーマが分かれています。
ステンドグラスの一番上に置かれた神に始まり、その下は沢山の聖人、天使、預言者、
12使徒などが描かれています。それ以降は一番下の段を除き、聖書のシーンが描かれています。
パネルとそのテーマ
私が訪問した時は修復作業中で全てのパネルが取り外されていましたが、修復が完了した一部のパネルが展示されており、中世の傑作を間近で見ることができました。
ここからは、引用されている聖書のテーマや修復内容に触れながら、当時展示されていたパネルの一部をご紹介します。修復が完了した現在は個々のパネルを近くで見ることはできないので、名工の仕事をここで楽しんでいただければと思います。
これはヨハネの黙示録13章4節に書かれている、人々が頭が7つある獣を崇拝するシーンです。窓全体の構成図で見ると⑤の部分に飾られています。
獣を崇拝している人々の服装の違いや獣の頭の細かさにも目が行くところですが、このパネルは修復前のパネルを見ると更に面白いです。
修復後と修復前を比較すると、修復前には人と獣の間に青とオレンジ色で描かれた別の生き物がいるのが分かります。
これは1950年代に、このパネルが修復された時に追加されたものですが、その後、聖書学的観点から、このシーンには1匹の獣しかいなかったとされたため、2005年からの修復作業時に削除されました。*1
絵画は完成から何百年も経過した後に、教義的な正しさを理由に描き換えられることはありません。*2
一方で、ステンドグラスは文字の読めない信徒に聖書の内容を伝えるという、いわば教科書的な役割を担ってきたため、その内容は正確である必要があります。
そのような背景があり、修復の機会にデザインが修正されたのだと考えられます。
その美しさはもちろんですが、聖書に非常に忠実であるという点からも注目すべきなのが、もう1枚のパネルです。
ヨハネの黙示録10章1節から7節、ヨハネが天使から、7つの雷が言うことを書き留めないように言う場面が表現されています。
青、赤、緑と様々な色が使用され、色彩の美しさが際立っています。それに加え、天使が画面の中央に大きく配置、聖ヨハネが膝をつくポーズで小さく配置されることで、天使の力強さがより強調されているようです。
ここで聖書の本文を読んでみると、
また私は、もう一人の力強い天使が雲を身にまとい、天から降って来るのを見た。頭には虹を戴き、顔は太陽のようで、足は火の柱のようであり、
手には開かれた小さな巻物を持っていた。そして、右足で海を、左足で地を踏まえて、
とあります。
画面中央にいる、天使の足元に注目してください。
聖書の通り、右足は画面を横切る川(聖書では海)、左足は地面を踏んでいることがわかります。
普段私たちがステンドグラスを見る時は、そもそも個々のパネル毎に見るのが難しいため、窓全体としての美しさばかりに気が行きがちですが、じっくり見てみるとステンドグラスの宗教的な役割を果たすために、緻密にデザインされていることが理解できますね。
ヨーク大聖堂のステンドグラスから、教会にあるステンドグラス全体の話に広がってしまいました…。
今回ご紹介したパネル以外にも、The great east windowは美しく、聖書学的観点からも面白いパネルを多く持っています。
今回のエントリーを読んで、それぞれのパネルに興味をお持ちの方は、洋書ですが、聖書の解釈と合わせてパネルを紹介した本がAmazonで販売されているので、そちらを是非ご覧ください。
参考文献
The Great East Window, York Minster, UK » The York Glaziers Trust